水着を忘れたので
私は、忘れ物が多い子供だった。通知表には必ず「忘れ物が多い」と書かれていたし、先生にも、母にも、その事でよく怒られた。
小学校3年生だったか、4年生だったか、それぐらいの時の事。学校に水着を忘れた。散々母に怒られた後、次の日もプールの授業があったので「学校に取りに行け」と母に言われた。
下校時間もとっくに過ぎていた。夜になりかけの薄暗い中、私は学校に行った。
案の定、校門は閉まっている。しばらく校門の前にしゃがみ込んで、どうしようかと悩んでいた。
そこに、1台の車が私の側に止まった。運転席の窓が開き、30歳前後の男の人が私に話かけてきた。
どうしたの?
私は、極度の人見知りで、男性も苦手だったので、男性の問いに答えなかった。
「おじさん、道に迷ってしまったので案内してもらえないかな?」
優しそうに笑ってたけど、なんだか危険だと思ってその場から逃げた。
そしたら、車でついて来た。私は、全力で走った。
「おじさん、怖い人じゃないよ」って言う。直感で嘘をついてるって思った。このまま車から降りてきて抱きかかえられたら抵抗できない。捕まるわけにいかない。
「お母さぁ~ん」って泣いて叫んだ。目の前に母がいた。母が走ってきて私を抱きしめた。
おじさんは母を見て、Uターンしどこかに行ってしまった。やっぱり悪い人だったんだと思う。
母は、水着を取りに行かせた後、私の後を付けて様子をみていたらしい。そしたら、へんな車につけられ、必死に走る私を見て、ただ事じゃないと思って慌てて私のもとに来たのだと言った。
あの時、母が来てくれて本当に良かった。50代のおばさんになっている未来を謳歌できて本当に良かった。
そして、人見知りで心の扉を開くのに時間のかかる性格で良かったとマジで思う。
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